時を束ねて リボンをかけて

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今の家に引っ越すまで・・・4



本契約から引っ越しまで、1か月以上も間が空いた。
その間、私はこの家に一度も来ていない。
ガスの開栓の仕方も忘れてしまっていたので、ガス屋さんに当日来てもらった。
ガス屋さんが言った。
「あのですね・・・sofianohahaさんが引っ越して来たら、電話くれるようにとHさんに言われているのですけれど・・・」
私は、ほとほとあきれて言った。
「ほおっておけ!!無視していいから!!相手にしなくていい!!」
これがいつもの口調の私の実態。(笑)


この家を内覧したときに、不動産屋さんの車の中で、「いい年をした年配の女が、一人で知り合いのいない町に引っ越してくるのは、珍しいのでしょうね。」と私は聞いた。
不動産屋さんは、そんなことないと言った。
この商売を始めてから、3000件以上の取引があるが、いろんな人がいましたし、いろんな人生がありますしね。
女性も、ご主人が亡くなったり、離婚したりで一人になる人はいくらでもいますから。
・・・・というようなことを言った。
そして、それ以上私のことについては聞かなかった。

Hさんは、決して悪い人ではないが、私が一人で移住してくるということで、私を可哀想な人という印象を持ったのかもしれない。
なにしろ一人暮らしというと、寂しいだろうなあと思う人が多いらしいから。(笑)

私は自分のことを話さないから、勝手に想像してもらうしかないのだが、不動産屋さんはそういう点では商売が上手で、決して私のことについて触れない。というか興味をもたない。

実は私には夫がいて、別居かもしれないし(いないけれど)
実は私には内縁の夫がいて、後から来るかもしれないし(いないけれど)
実は私には大金持ちのパトロンがいて裕福かもしれないし(いないけれど)
そういうふうな想像力を持ってもらえばよかったが(笑)、Hさんは、私を薄幸の女性と見たのではないだろうか?
私は嬉々として引っ越してきたのだが。

Hさんは、この家を手放すことに相当の決心が必要だったと思う。
何しろ、20年も通い続けてきた家である。
来れば、1か月は滞在していたというから、もちろん愛着もあると思う。
庭も、日本庭園と言っていて、かなりご近所さんに自慢していたということを、後で聞いた。
そのHさんが大事にしていた家や庭を、私がどんな人間かを知らないから、大切にして引き継いでくれると勝手に思い込んだのではないだろうか・・・。
家は売り飛ばしたら、買主のもので、諦めなきゃならないのに、いつまでも諦めきれずに執着しているように思えた。

私は前の家の庭から両親の植えた牡丹やシャクナゲ、キンカンの木を持ってこようと思い、解体前に掘り起こしに行った。
でも、根が深くて掘り起こせなかった。
「そうか・・お前たちはこの家と共に、一緒に死んでいくんだね。」
そう言って、未練はあったが諦めたのだ。
不動産屋さんがHさんのことを「いつまで自分の家だと思っているのだろう・・・」と言っていたが、どこかで思いを断ち切らなければならないのだ。
断ち切れないのであれば、売却するのを諦めればよかっただけだと思う。


私は猫のために家を購入したのである。
私が快適に暮らすということは、まずは猫たちが快適でなければならない。
私はHさんに猫を5匹飼っているとは伝えていない。
だから、Hさんの自慢の家は、お気の毒だがいつか猫に荒らされる家になる。
もう、うちのおてんばな猫は、新しい壁紙で爪をといでいる。
立派な応接セットが置かれていたHさんのリビングには、今は猫のトイレが君臨している。
引っ越してきた2日後には、庭の木は管理会社の人に頼んでほとんど切り落とした。
もちろん有料で。
2トントラックの荷台に、満杯の大量の木々の山。
それでも残ってしまったものもあるのだ。
10坪にも満たない小さな庭によくぞこれだけ植えたと思うくらいの樹木。
私は樹木も、自分より背の高いものはいらない。
これからもっと年老いていくのに管理ができない。


何もない生活をずっと私は望んでいた。
猫たちと私は、これからひっそりと暮らしていくのだ。


終わり。


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