時を束ねて リボンをかけて

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私は傲慢だった。



前回の続き。

一人暮らしが暇だとは限らない。
私は忙しい。
やることややりたいことがたくさんある。
彼女の誘いを断るのは、本当に忙しいからだ。


買い物に行くのに、彼女の家の前を通る。
左右確認するために一旦停止しなければならない。。
左右確認して、いざ出ようかと思ったときに、いきなり庭から彼女が私の車の前に両手を広げて飛び出してきた。
思わずブレーキを踏んだが、もし、アクセルとブレーキを間違えていたら、彼女は私のボンネットの上にあった。
そのくらい、すれすれの距離だった。
頭にきて運転席から「なんなんですか!!」と怒鳴った。
「忙しい?」
「忙しいですよ」
「忙しいのかあ・・じゃあちょっとだけ」

そう言って話し始めた。


「▲▲▲さんってさあ・・・」
(もう、ここですでにうんざりしてしまった)
「▲▲▲さんって誰?」
▲▲▲さんと言われて、分かるほど近所の人の名前なんて知らない。
飛行機好きなおじさんのことだった。

そこから、話し終わるまで一言も言葉を返さず、聞いていた。


あの人、大金持ちだよ。
あのひと、親指ないんだよ。
障害年金もらっているんだって。
私の知り合いにもあのくらいの障害を持った人がいるから、だいたいの障害年金の額って、私知っているんだ。
あのひと、自炊しないで3食外食なんだよ。
仕事行くふりしているけど、実は飛行機見に行ったり、海見に行ったりしているんだって。
etc・・etc


そんなことが、車の前に飛び出してまで、言わなきゃならないことなのか。

うちの病気の猫のことを「そんなの寿命だよ。お金の無駄だからあきらめな。」と言われたときも、どうしようもないお婆だと思ったが、言い返すのも面倒で我慢したのだ。


だが、さすがにもう、うんざりを通り越して頭に来てしまった。

彼女が全て話し終わってから、私は強い口調で言った。
「いいかげんに、近所の人の噂話はやめたらどうなの!!」
彼女の捨てセリフ。
「あんたって、うちの妹と同じね。近所の人の話はするなって!」
そう言い返して家の中に走って入っていった。
彼女は妹さんと喧嘩して絶縁状態だが、自分の妹が嫌がっていることだから、他人も嫌がると、どうして結びつけないのだろうか。
それだけ、自分の周りにはそういう話が好きな連中しかいないのだろうか?


彼女が前のマンションから出たのは、自分から出たのではなく、出ざる得なくなったのではないかと思った。
噂話が好きで、他人のことに興味津々な人は、確かにどこにもいるだろう。
しかし、そういうことが、自分の首を絞めるということもある。
総スカンくらう危険性もあるのだ。


彼女は寂しいのだと思う。
そういう噂話の好きな連中と話していても、心が満たされていないのだ。
そして、上手に他人とコミュニケーションが取れているようで取れていない。


彼女は昨年の9月、末期がんで余命半年と宣告されている。
今のところ、1年が過ぎたが、元気でいるようだ。

余命を宣告されたときに、財産の整理に入り、ユニ○フに多額の寄付もしている。
10万20万ではなく、100万200万でもなく、その上の額を。
最初は眉に唾をつけて聞かなきゃならない話だと思ったから、え~とかほ~とかは言わなかった。
なぜにユニ○フ?とだけは言ったけど。
そこしか、寄付するところが思いつかなかったと言っていた。

ホスピスに入りたくて、ケアハウスを内覧したと言っていた。
1400万程、入居のときにかかり、月々30万かかるのだそうだ。
その話をされた時も、私は性格が悪いから、アドバイスはできない。
私なら、それだけの羨ましいほどの財力があるのなら、ためらわずに入居するが、それを決めるのは私ではない。


私は傲慢だったのだ。
彼女の余命宣告の話に同情してしまったということにおいて。
明日の私の姿かもしれないのに。
誰にでも起こり得る話かもしれないのに。
そして、彼女を理解しようと思ったことに対しても、上から目線の私の傲慢さだったのだ思う。


私がここに引越してきた最初の目的を忘れるところだった。
私は、他人に同情や憐みを与えるほどの、心の余裕はない。
私は今の自分を大切にして、今の自分を愛して生きていくしかないのだ。

彼女の人生は彼女が生きていくしかない。

そう思って、私は彼女との間に線を引いた。


おわり






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