Tさんのこと。

前回、両親の形見はないという話を書いたが、形見というと思いだすことがある。


私が離婚して、最初に勤めたところは、小さな会社だったが今思えば不思議な会社だった。
そこの事務員(仮にM)が出産のために辞めるので、その代わりの募集だった。
そこには、もう一人事務員がいた。
社長の愛人だということはすぐにわかった。(仮にT)

私は1年だけそこに勤めて転職した。
私の次の事務員は、Mさんが出産を終えて職探しをしていたので、再びMさんが勤めることになった。
そのMさんも旦那さんが脱サラをして会社を立ち上げたので、旦那さんの仕事を手伝うということで3年ほどで再び退職。


それから月日が過ぎた。
Mさんとは連絡を取り合っていたが、Tさんとはばったり会うことはあっても連絡を取り合うという関係ではなかった。

ある日突然、社長から私の勤め先に電話があった。
Tが死んだと。
Tの友達を俺はだれも知らないというのだ。
唯一、Tさんのハンドバックを見たら、私の連絡先が書いてあるメモが見つかったから電話したと言われた。
社長は言葉が詰まって時々涙声になり、私は「わかりました。すぐに行きます」と答えた。
それからMさんに連絡して二人で向かった。

そのころ、その会社は繁華街の4階建てのビルを買い取っていて、1、2階はテナントとして貸し、3階が事務所、4階がTさんの住まいになっていた。
私たちが到着した時は、警察の検視が終わったばかりで私たちは彼女の部屋に入って対面した。
社長は自宅から電車で通ってきていて、いつまでたってもTさんが事務所に降りてこないので見に行ったら亡くなったいたということだった。
くも膜下出血だった。

Tさんの部屋はワンルームで、大きな箪笥が2竿でんと置かれそれが部屋を区切っていて、その箪笥の上にはずらりと大量のブランド物のバックと箱。
その裏手はクリーニング店のような回る大きなハンガー掛けがあって、そこにまさクリーニングされた洋服がビニールを外されないまま大量にかかっていた。

その遺体の側で、私たちがしたことは、Tさんに化粧をすることだった。
華やかな広い交友関係のある人だから、次々と対面する。
だからどちらからともなく、化粧をしよう!と言い出したのだ。
すっぴんで対面させるのはやめようと。
ドレッサーの上には高級化粧品が並んでいる。
Mさんは元化粧品の美容部員だから、1本1本ラベルを見ながら化粧をした。
Mさんのコットンにたっぷり化粧水を含ませパッティングするその手を、不思議な気持ちで見ていた。
ファンデーションもアイシャドウも口紅もたくさんあって、二人で手の甲で色を確かめながら決めていって、本当にまさに生きているようにきれいに仕上げた。
Tさんはそのとき52歳くらいだったと思う。
私やMさんは年下だったから下の名前を呼び捨てにされていて、姉後肌の人だった。

なぜ、私の連絡先のメモがTさんのバックの中にあったのか、いまだに謎だ。
たった1年しか勤めなかったところだったのに、その日はとても長い1日になった。


形見ということを書くはずだったのに、長くなったので、続きは明日へ。


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[ 2018/05/11 23:53 ] ひとりごと | TB(-) | CM(-)
プロフィール

sofianohaha

Author:sofianohaha
5匹の猫たちを連れて、まったく知り合いもいない、私を知る人もいない小さな田舎町に引っ越しをしました。
質素にひっそりと暮らしている、ぼっち生活を綴ります。



現在、
移住して2年が過ぎました。
5匹いた猫は4匹になり、相変わらず猫中心のひっそりとした生活を継続中です。