この話にはオチがある。

昨日の続きです。
長文ですので飽きたら読むのはストップしてください。

Tさんの化粧を終えて、部屋の片づけをしているときに、やっとTさんの息子が来た。
私が勤めていたころ、この息子は高校三年生だった。
大人になった彼と久しぶりに会ったけれど、涙も流さず母親に縋りつくでもなく、今現実に起こっていることに戸惑っているように見えた。
そしてなるべく早くTさんを下の事務所に移し、この部屋は鍵をかけて誰も入れないようにしたほうがいいと助言した。
なぜならダイヤのピアスやネックレスやいわゆる金目のものがどうってことなく、その辺に置かれていたからだ。
おそらく現金もあったかもしれない。
何がなくなっても誰もわからないという部屋だった。
事務所は畳敷き。
社長が炬燵が好きで、事務は座敷での仕事になる。
部屋に安置するよりも事務所に安置したほうがいいと私たちは考えた。

息子が来てから、それらの無造作に置かれていた宝石類を、そばにあったチェストにしまおうと一番上の引き出しを開けた時に、私はさらに驚くことが起きた。
そこには1枚の写真が入っていた。
それは勤めていたのはたった1年だけれど、私は一度Tさんと私と私の息子と3人で1泊旅行をしている。
私ですら忘れていたことだったから、3人で映っている写真を見た時は衝撃だった。
そしてこれも縁だと思ったのだ。
本来なら私も弔問客の一人にすぎなかったはずだが、葬儀屋さんに言われる通りにお供え物の団子を作り、夜遅くまで途切れることのない弔問客にお茶を出し、くたくたになって長い1日を終えたのだ。

なぜTさんのハンドバックに私の連絡先のメモが入っていたかいまだ謎だと書いたが、たぶんこれは不思議な運命でTさんは私にきれいなままでほかの人に合わせてくれるようにとの、頼みだったのではないかと思ったりした。
彼女の華やかな交際範囲の中に、心を許せる人が果たしていたのかどうかそれは疑問だ。
飲み仲間はたくさんいたし、5人の母子家庭や独身女性だけのグループも持っていた。
そのグループで、旅行に行ったり食事会を開いたり、観劇に上京したりしていた。
そしてなによりも笑えるけれど、全員が妻のある人と付き合っていた。
見栄とどうしようもないプライドとライバル心とが何重にも重なっているような友達関係は、私ならいらないが、そのころのそのグループには必要だったのだろうと思う。
年を取ると必要のないものが増えて、見栄もプライドも捨てられるけれど、あの頃は若かったから、それに気づけなかった時期だったのだろう。

Mさんに言われた。
「Tさんは○○ちゃん(私のこと)のことを好きだったんだと思うよ。
ブランド物の話をしても男の話をしても、まったく興味を示さないし、不快感をモロ顔に出していたから、そういう人間はTさんの周りにはいなかったからね。
私はね、あの不倫グループの自慢話にも下卑た話にも、バカになって聞いていたけれど、内心は私のような夫のある人間から見れば、あの人たちは敵だと思っていたよ。」

Mさんのほうが、私よりはるかに大人だった。
それから私は人間的に丸くなろうと努力したけれど、それが私の心を無理させてしまうことになった。
現在の私はあの頃の私に似ている。
自分の心に無理させることはことごとく排除しているところが。



話を戻すと、あの時の社長の行動は早かった。
他県にいるTさんの弟に宗派を聞いて、お寺をみつけ墓地を買いお墓を立てる契約をして、葬儀一切を取り仕切った。
それをTさんが望んでいたかどうかは知らないが、盛大なお葬式だった。
喪主はひとり息子だったけれど、その長い年月の社長と母親との関係を知っていたから、何も口は出せなかった。
その息子を見ているのが私やMさんには辛かった。
社長は、私からすればホントに傲慢で嫌いなタイプの男だったけど。
そして葬儀が終わるころ、社長に2週間後の日にちと時間を指定されて、Tさんの形見分けをするから来るように言われたのだ。

Mさんにどうする?と聞かれたときに、「行かない」と言った。
ブランド物に興味がないし、そこに群がる一人になりたくないと私は言った。
そして、Tさんのものはたとえ社長が買い与えたものであっても、Tさんのものであり、その処分は息子がするべきだと私は思っていたのだ。

社長のTさんへの執着はたいしたものだと思うけれど、残念ながらTさんには社長に内緒で付き合っていた恋人がいた。
それがオチである。
その恋人も葬儀に参列したから、あれほどきれいに化粧したTさんを見せられて、私はホッとした。


形見なんか持たなくても、ふとしたときに思い出す思い出があれば、それで亡くなった人は喜んでくれるんじゃないだろうか。
今回のTさんのことのように。
Tさんの心のなかは誰もわからない。
人は人の心はわからないものだ。





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[ 2018/05/12 23:50 ] ひとりごと | TB(-) | CM(-)
プロフィール

sofianohaha

Author:sofianohaha
5匹の猫たちを連れて、まったく知り合いもいない、私を知る人もいない小さな田舎町に引っ越しをしました。
質素にひっそりと暮らしている、ぼっち生活を綴ります。



現在、
移住して2年が過ぎました。
5匹いた猫は4匹になり、相変わらず猫中心のひっそりとした生活を継続中です。